ランダム磁場中の2次元電子はいくつかの観点から関心を集めています。
試料はGaAsの2次元電子系をホールバーに加工したものの表面に電子線リソグラフィーと蒸着・リフトオフによって乱雑なパターンの磁性体を配置したものです。
磁性体としてDyとCuの合金を用いたことがひとつの特徴です。 この物質はDyを含んでいるため体積あたりの飽和磁化が大きく,大きな変調磁場を作り出すことができる一方, 比較的低温でも自発磁化を持たないため,外部磁場によってその変調磁場の大きさをゼロから連続的にコントロールできるのが特徴です。 今回の試料では右図のようなパターンになっており,ランダム磁場を特徴付ける相関長が約1ミクロンで,電子の平均自由行程10ミクロンよりも十分短くなっています。 ランダム磁場はこれらの磁性体を外部磁場によって磁化させることによって発生させるわけですが,2次元系に殆ど影響を及ぼさない面内方向の磁場で磁性体を磁化することによりゼロ平均の変調磁場を作り出せます。 また,それと直交するマグネットで2次元面に垂直な一様磁場をそれとは独立にかけることができます。 |
試料の概念図 試料のSEM写真 |
はじめにゼロ平均のランダム磁場を加えるために2次元面内方向の磁場を加えて抵抗変化を測定しました。
赤い線はランダム磁場のあるほう,青い線は何もない方のホールバーに対応していますが,ランダム磁場のあるほうで大きな抵抗の増加が見られるのがわかります。
この抵抗の増加をランダム磁場の強さと比較したいわけですが, ここで磁性体がヒステリシスを持たないことが重要になってきます。 緑色の点は同時に蒸着したDyCuの磁化をSQUIDで測定したデータを2乗して適当にリスケールしたものですが,ランダム磁場による抵抗増加とほぼ一致することがわかります。 つぎに,面内方向の強い磁場をそのままにしてランダム変調を一定に保ちながら一様磁場成分を加えたときの磁気抵抗です。この磁気抵抗の形は上で紹介したν=1/2のまわりでの磁気抵抗(磁性体の修飾とかはない2次元電子系)とよく似た形をしています。これらの間の共通点としては
などが挙げられます。これは複合フェルミオンとランダム磁場系の関連を示唆しています。 |
面内磁場に対する依存性 一定のランダム磁場下での磁気抵抗 |