”メゾ (meso) ”というのは、中くらいの、というような意味です。つまり、メゾスコピック (mesoscopic) というのは、macroscopic(巨視的)とmicroscopic(微視的)との中間くらいの大きさ、という意味です。超伝導体の場合は、磁場をかけたときに侵入する渦糸の大きさと同程度、であることを指すのが一般的です。
超伝導体が渦糸よりも十分に大きければ、渦糸は三角格子を組んで安定化します。しかし、超伝導体がメゾスコピックな大きさの構造を持っている場合には、通常の(大きな)超伝導体では実現できないような様々な状態が実現します。私は、このメゾスコピック超伝導体特有の渦糸状態について調べる実験を行っています。
左の写真は、試料の電子線顕微鏡写真です。Si基板の上に超伝導体(Al)の「網」=超伝導ネットワークを作製し、さらにその上に小さな強磁性体(Co)を周期的に配置してあります。
超伝導ネットワークに侵入した渦糸は必ずネットワークの「目」の部分に閉じ込められてしまい、通常の超伝導体の場合のような三角格子を組むことができなくなります。この、渦糸格子と超伝導ネットワークの格子との間の不整合性=フラストレーションは、超伝導転移温度や転移の詳細などの超伝導ネットワークの性質に大きな影響を及ぼします。
フラストレーションの大きさは渦糸の充填率、つまりネットワークの格子の数に対する渦糸の本数で表され、かける磁場の大きさを変えることで簡単に調節できます。
私の研究は、特に充填率1/2、つまり格子の半分に渦糸が入った状態での相転移についてです。
強磁性体を利用して侵入した渦糸の配置を制御し、それによる相転移の変化から
充填率1/2での相転移の詳細について調べています。
メゾスコピックな大きさの超伝導体においては、渦糸が端から受ける反発力を無視することができなくなります。
その結果、もともとの三角格子は壊されて微小超伝導体特有の新たな渦糸状態が実現すると予想されています。
たとえば、渦糸が超伝導体の形状に合わせて再配置したMulti-vortex stateや、すべての渦糸が一つにまとまってしまうGiant vortex stateなどが予想されています。また、三角形や正方形の場合には渦糸と反渦糸のペアが自発的に生成するといわれています。
私は、十字状に加工した半導体2次元電子系(Hall cross)を用いた局所磁場測定によってこの渦糸状態について調べています。Hall crossのHall抵抗はそこにかかる磁場によって変化するので、その変化から微小超伝導体内での渦糸状態についての情報を得ることができます。私はHall cross の構造を非常に細かくすることで、微小超伝導体内での磁場の空間的な変化を測定し、その結果から渦糸状態の詳細を調べる実験を行っています。