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Abstract: 本研究は横結合型量子ドットにおける電子輸送現象を実験を通して調べたものである。量子ドットは電子を微小な領域に閉じこめた人工量子系であり、任意の加工ができるという人工系の特性を生かして、原子や分子などの自然界の量子系とは異なり、直接リードを取り付けて電気伝導により内部の状態を直接的に測定することが可能である。この伝導現象においては、量子ドットに直接電子が出入りするため、量子ドットとリードとは不可分となり、その結合系が研究の対象となる。これまでの量子ドットの伝導測定においては、測定量を量子ドットを通過して流れる電流とするために、二つのリードを量子ドットに結合させる手法がよく用いられてきた。この場合、量子ドットと二つのリードの電子系との結合系を扱うことになる。しかし、結合系という視点で見て物理的に最も単純な系は、量子ドットと一つの電子系との結合系である。この系が、本研究で扱う量子ドットが単一のリードに結合した横結合型量子ドットである。 横結合型量子ドットにおいては、量子ドットを通して流れる電流は無いが、その内部状態は量子干渉効果により調べることができる。量子細線と呼ばれる一次元伝導チャンネルの側面に単一トンネル障壁を介して量子ドットを結合させると、量子ドットを経由する経路と経由しない経路が生じ、これらがFano 効果と呼ばれる量子干渉効果を引き起こす。このFano 効果を電子状態の良く定まった少数電子の量子ドットを用いて測定した。この結果、量子細線の状態の変化とともに干渉が変化する様子が観測され、これが量子ドットと量子細線の結合部の有限幅によって起こることを示した。 横結合型量子ドット内の状態を調べる他の方法としては、静電効果を利用する方法がある。例えば量子ドット内準位の電気化学ポテンシャルを電極のFermi 準位に対して変化させ、この際に生じる量子ドット内電荷数の変化を、近傍に設置した量子ポイントコンタクトの伝導度の変化として調べる。量子ドット内準位が電極のFermi 準位より下になると、量子ドットへの電子の流入が起こる。この電子の流入を検出することにより、励起状態まで含めた量子ドット内準位の情報を得ることができる。この際、電圧バイアスをかけた短い量子細線をリードとして用いることによって、量子ドット内準位のエネルギーを正確に求められることを示した。エネルギー緩和長より短い量子細線に電圧バイアスをかけると非平衡状態となり、量子細線内には二つの擬似的なFermi 準位が生じる。これら二つのFermi 準位をエネルギースケールの基準として利用することにより、量子ドット内の軌道やスピンの励起エネルギーを正確に求めた。 量子ドット内状態が正確に求められるようになると、逆に量子ドット内準位を利用して量子ドットに結合しているリード内の電子状態を調べることも可能になる。特に横結合型量子ドットは正味電流の流出が完全にゼロのため、擾乱の小さい優れたプローブとして動作する。また、量子ドット中の準位がスピン状態に依存するので、このプローブはスピンに対して感度を持つ。そこで実際に横結合型量子ドットを用いて、リード内に生じたスピン偏極を検出できることを示した。 また、局所的な電子状態が重要な役割を果たす系として量子Hall 系がある。そこで、横結合型量子ドットを局所プローブとしてその電子状態を測定した。局所的な電気化学ポテンシャルや電子温度を測定した結果、エッジ状態の形成や、エッジ状態の向き、量子Hall 領域におけるエネルギー緩和の抑制などを確認した。そして、エッジ状態におけるスクリーニングの効果についても横結合型量子ドットを用いた手法により観測できることを示した。
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