III-V族希薄磁性半導体の磁性と伝導
林岳
Doctoral Thesis, University of Tokyo (2002)
Modify
Note: Doctoral Thesis, University of Tokyo, Japanese only
本論文はIII-V族希薄磁性半導体(diluted magnetic semiconductor, DMS)の金属絶縁体転移(metal-insulator transition, MIT)の実験的研究について述べたものである.本研究の目指す物理学的な課題は,大きく分けると次の3つである.
1. III-V族DMSにおける2種類のMITはどのような機構により発生しているのか.
2. III-V族DMSの強磁性はどのような機構により発生しているのか.
3. 不純物半導体におけるAnderson転移に,磁性などの電子相関が絡んだ場合,転移の性質はどのように変化するのか.
本研究では,この問題に対し主に電気伝導の測定によりアプローチした.そして,不純物半導体においてすでに行われているように,転移点ごく近傍の試料を用意し,精密な測定を行ってAnderson転移のスケーリング理論による解析を行った.
この課題の実験的遂行の過程において,III-V族DMSの成長条件敏感性が大きな障害となったが,これを低温アニール法の開発により克服し,更に転移点近傍の試料を容易に得る手法とした.
この手法の開発により,2つの金属絶縁体転移のごく近傍の試料を準備し,巨大磁気抵抗効果を用いて磁場により金属絶縁体転移を起こし,転移点近傍の電気伝導の温度依存性・磁場依存性を詳細に調べた.
測定結果に2パラメータスケーリング解析を行い,磁性の発現と密接な関係のある第一の金属絶縁体転移(MIT1)においては,2パラメータスケーリングが成立する磁場・温度範囲が極めて限定されることを見出した.
一方,磁性との直接の関係を持たないMn高濃度域の金属絶縁体転移(MIT2)においては,測定全範囲に当てはめることができた.
以上の主結果と,光学伝導度の測定,磁化測定の結果などから,III-V族DMSの電子相図と金属絶縁体転移について一つの物理的な描像を得た.